2015年 08月 16日

微熱の窓辺 第2回

「微熱の窓辺」第2回をお届けします。
購読者の皆様にとっては「バックナンバーの窓辺」ですな。

皆さん、お盆は里帰りしましたか?
お墓参りには行きましたか?
私は行ってない!ごめんねご先祖さん。
また今度、缶ビール持って行くからね。

本日の窓は2014年3月25日に配信された第18回「春のスケッチ」より。
「微熱の毎日」コーナーの一部抜粋したものです。
春のお彼岸の話。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

…その五 春眠再び

最近、夜中に一度目を覚ますのが癖になっている。
眠りが浅いのだろう。
変な夢をみる。

昨日の夢に、昨年死んだ祖父が出てきた。
実家のリビングで寝ていると(リビングで寝るな。)
引き戸がざらっと開いて、
漫画の浮浪雲そっくりな衣装で
「おかえり」と言いながら現れた。
死んだはずなのに、と思いつつも、再会の嬉しさに思わず手をとって
その姿をまじまじと見た。
祖父はやはり死んでいた。
生前と違うことがいくつもあった。

両耳の穴になぜかこんもりと肉が盛り、ふさがっていて、
そこからふさふさと長い毛が生えている。
左手を握ってその上からぼろ布をぐるぐると巻いており、
野口英世の伝記絵本でこんな様子を見たことがあるなぁと思った。
祖父はダイニングテーブルの端に腰かけ、
右手でお茶を淹れようとポットの上のボタンを押す。
でもそのポットはボタンを押してお湯の出るタイプでなく
ガラス製のポットが電熱器の上にのっているタイプであり、ボタンはない。
ないボタンを押すからガラスポットに直接触ってしまった。
「あつい」と言った。
よく見ると瞳も深い穴のようで、あぁこれでは何も見えていないだろう。

椅子に座らせてお茶を淹れてやる。
祖父はあらぬ方を見てぼんやりと待っている。
マグカップを持たせると
「おやすみ」と言って、自室に戻ってゆく。

私は勇気をふり絞って廊下まで追いかけ、それを引き留める。
手を握って穴の瞳を覗き込んだ。

「じいちゃん、もうここへは来ちゃぁいけん。じいちゃんは死んだんじゃけぇ。
このままだと成仏できんくなるよ。」

「死んだ?俺は死んだんかぁ?」

精一杯、厳しく、はっきりと現実を伝えなければ。
あんなに頭のよい人だったのに、死ぬと人は迷うのか、と悲しかった。
じいちゃんの家なのに「来ちゃいけない」と言わねばならないことも、とても悲しかった。
祖父の右手を両手で包んで泣きながら諭した。

「じいちゃんは死んだんよ。
きょうこが偉いお坊さんを雇ってよく供養してあげるけぇね。安心してえぇんよ。」

「ほうかぁ。俺は死んだんかぁ…」

みるみる間に祖父の身体は透明になってゆき
私の両手の中にはそのマネキンのような右手だけが残った。

祖父が憎くてこんなことを言っているわけじゃない、愛しいからこそ言っているのだ、
その気持ちが伝わっただろうか。
膝をついて脱力した。
祖父の右手はいつの間にか消えた。

死ぬと人は迷うとか、偉い坊さんを雇うとか、成仏するとか、供養するとか、
自分がそういう古臭い発想を持っているのに驚いたし、
地元の言葉を字におこすと、
あまりに「はだしのゲン」風で驚くし
多分に文楽の影響を受けている風なのも驚く。

ちょうど彼岸だった。

…続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・

会員制メールマガジン田村キョウコの「微熱の世界」好評配信中。
濃い話はこちらでどうぞ。
登録初月は購読料free!

[PR]

by santarablog1 | 2015-08-16 15:48 | 微熱の窓辺 | Comments(1)
Commented by Nori at 2015-08-19 01:04 x
バックナンバーの窓辺… た、確かに ^^;

この暑さだと、お墓参りで
笑いごとでなく体調崩しそうですよね…
なので、私も、お彼岸まで待ってもらうことにしました、ごめんなさい。

お彼岸の日は、お日様が真西(あの世がある方向)に沈むので、
迷うことがないのだと聞いたことがあります。


<< 微熱の窓辺 第3回      期間限定で開きます「微熱の窓辺」 >>